米軍が日本から火薬の調達検討、ウクライナ向け砲弾用=関係者

米軍が日本から火薬の調達検討、ウクライナ向け砲弾用=関係者

[東京 2日 ロイター] – ウクライナへの軍事支援を続ける米国が、砲弾の増産に必要な火薬を日本企業から調達しようとしていることが分かった。西側諸国がウクライナに戦車などを送る中、殺傷能力のある武器の輸出を禁止する日本は防弾チョッキなどの供与にとどめてきた。政府が輸出を認めれば、間接的ながら弾薬の支援に関わることになる。

ウクライナへの軍事支援を続ける米国が、砲弾の増産に必要な火薬を日本企業から調達しようとしていることが分かった。写真は前線に向かって砲撃するウクライナ軍。4月13日、バフムート近郊で撮影(2023年 ロイター/Kai Pfaffenbach)

事情を知る関係者2人が明らかにした。うち1人によると、米国は陸軍の工廠で製造する155ミリ砲弾に必要なトリニトロトルエン(TNT)の調達を日本企業に打診した。155ミリはウクライナ軍が最も多く使う砲弾の1つで、ロシアの軍事侵攻が長引く中、支援を続ける米軍は増産するためのTNTが不足している。

米国は日本を弾薬製造の供給網に組み込みたいと考えていると、同関係者は言う。

日本は防衛装備移転三原則で武器輸出を厳しく制限し、砲弾など殺傷能力のある装備は国際共同開発したものを除いて輸出を禁じている。特に紛争当事国への輸出は全面的に禁止してきたが、ウクライナ向けは昨年運用を変えるなどし、ヘルメットや防弾チョッキを供与した。

一方、堅牢さが特長のパナソニックのノートパソコンなど、軍が使うものでも一般に購入できる製品は三原則の対象にはならない。複数の日本政府関係者は、土木工事などに使う火薬であれば米軍の砲弾向けでも輸出できると話す。

輸出を管理する経済産業省によると、火薬類は必ずしも三原則の対象にならない。外為法に基づき審査し、問題がなければ輸出を許可する。一般に入手可能な火薬であれば、用途が砲弾であっても民生用として審査し、案件ごとに精査するとしている。

火薬の調達について米軍と日本企業が協議していることを把握しているかどうか経産省に尋ねたところ、同省の安全保障貿易審査課は「個別案件に関する回答は差し控える」とした。

武器輸出政策を所管する防衛装備庁は「個別企業の商取引について答える立場にない」と回答。その上で「日米の政府間では装備・技術協力について常日頃から様々なやり取りをしているが、詳細については相手国との関係上答えられない」とした。

米国務省は、日本からTNTの調達を検討しているかとの質問には直接答えず、ウクライナが必要とする支援について、同盟国や有志国と協力していると回答した。その上で、日本は「ウクライナの防衛について主導的な役割を果たしている」とした。

<同盟国で武器の供給網>

ロシアが勝利すれば中国による台湾侵攻の動きを勢いづかせる恐れがあると危惧する日本政府は、ウクライナを積極的に支援しようとしている。岸田文雄首相は「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」とたびたび発言してきた。

それでも、武器の供与については三原則に基づき殺傷能力のあるものまで踏み込んでこなかった。5月中旬に訪日したウクライナのゼレンスキー大統領と広島市で会談した際も、岸田首相は自衛隊車両を供与する方針を伝えるにとどめた。

安全保障や輸出管理などが専門の拓殖大学の佐藤丙午教授は「弾薬は兵器ではなく軍需品なので、致死性があるものを輸出するという解釈は妥当ではないように思う」とする一方、「それに準ずる日本産のものが紛争地に行くことに対し、過激に反応する人たちがいてもおかしくない」と話す。

ウクライナ向けの弾薬供給が不足する中、米国は日本を含め同盟国、有志国に協力を求めている。サリバン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は主要7カ国首脳会談(G7広島サミット)の期間中に開いた記者会見で、「ウクライナの継戦能力を維持するために必要な物資を確保することは、引き続きバイデン大統領の最優先課題だ」と語った。

155ミリ砲弾を運用する韓国も米国から協力を打診された国の1つだが、韓国国防省の関係者はロイターの取材に対し、殺傷能力のある武器をウクライナに供与しない方針は変わっていないと答えた。

ロイターは米軍が打診した日本企業を特定できていない。前出の関係者らも企業名を明らかにしなかった。

ロイターが日本火薬工業会の会員企業のうち、火薬類を扱う22社に問い合わせたところ、TNTを製造していることを確認したのは中国化薬(広島県呉市)のみ。同社はロイターの取材に対し、TNTを製造しているものの「輸出について米政府及び米軍から直接打診を受けたとの事実はない」とした。

防衛装備庁や他の企業などを通じて米側と協議しているかどうかについては、「個別の商取引については細部を答えていない」とコメントを控えた。

岸田政権は、昨年末にまとめた国家安全保障戦略など防衛三文書に三原則を見直す方針を盛り込んだ。与党の自民党と公明党が運用指針の改定に向け現在協議しており、殺傷能力のある武器輸出を可能にするかどうかが議論の焦点となっている。

1日の日米防衛相会談後に会見したオースティン米国防長官は、日本が武器輸出政策の変更を検討していることについて問われ、「さらにウクライナへ支援できるようになるのは歓迎だが、決めるのは日本政府だ」と語った。

(Tim Kelly、久保信博、豊田祐基子、金子かおり 取材協力:Idrees Ali、Ju-min Park 編集:橋本浩)

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